生涯と背景
カウティリヤ(カウタリヤとも。ヴィシュヌグプタと呼ばれることもある)とは、『アルタシャーストラ』が著者または編者として記す人物の名である。インドの伝承では彼をチャーナキヤと同一視している。チャーナキヤは、紀元前4世紀後半にチャンドラグプタ・マウリヤがマウリヤ朝を興すのを助けたとされるバラモンの助言者である。本文自体はチャーナキヤという名を一度も用いておらず、現代の研究者の大半は、この同一視を後世の伝承とみなしている。
20世紀以降の文献学的研究により、『アルタシャーストラ』は複数の著者や編者による層を重ねたテキストであることが明らかになった。パトリック・オリヴェルは、最古の原資料層をおよそ紀元前150年から紀元50年、カウティリヤ版をおよそ50–125年、最終編纂をおよそ175–300年と位置づけている。他の研究者は別の年代を提案しており、伝統的なマウリヤ朝時代とする説にも現在なお支持者がいる。この著作は、R・シャマサストリーが1905年に写本を特定するまで、近代の学術界ではほとんど知られていなかった。彼の英訳は分冊で刊行され、1915年に全巻が出版された。したがって本項では、個人の伝記ではなく、テキストとその伝承に見られる思想を扱うため、生没年を記すことはできない。
主な思想
アルタは物質的な繁栄を意味し、さらに領土と富を獲得し、保全するための学問を指す。『アルタシャーストラ』は、王子の教育から要塞の攻略までを扱う、全15巻150章からなる王のための手引書である。
- 国家を一つの体系として捉える。 本書は王国を構成要素の集合として分析しており、慣例的には君主、宰相、農村、城塞都市、国庫、軍隊、同盟国が挙げられる。いずれかの要素の弱体化は、全体を弱める。
- 行政。 最も長い第2巻では、鉱山、森林、交易、度量衡、造幣、農業、酒類などを担当する監督官について、価格、賃金、罰金に関する詳細な規則とともに記されている。初期の官僚制国家の手引書とみなせる内容である。
- 汚職と統制。 宰相は実証された能力に基づいて選ばれ、誠実さを秘密裏に試される。また本書は、官吏が収入を横領する手口を列挙している。スパイのネットワークが官吏、臣民、近隣の宮廷を監視する。
- 福祉と正統性。 王は、自らの利益は臣民の利益のうちにあると説かれる。飢饉、疫病、戦争の際には、救援を提供し、公共事業を実施し、租税を免除すべきである。秩序は処罰の杖であるダンダに支えられるが、これを過度に厳しくも、過度に寛大にも用いてはならない。
- 外交政策。 第6巻では諸国家の「輪」(マンダラ)が示され、そこでは隣国は自然な敵、隣国の隣国は自然な同盟国とされる。第7巻では、和平や戦争から同盟、「二重政策」まで、外交政策の六つの方策が論じられる。同じ目的を他の手段で達成できる場合、戦争は避けるべきとされる。
ガバナンス設計への影響
『アルタシャーストラ』がガバナンス設計にとって重要なのは、模範としてというよりも、歳入を徴収する国家をいかに行政運営し、取り締まるかを体系的に記した最古級の著作の一つとしてである。官吏の適性を試し、配置換えや監査を行い、情報提供者を活用し、あらかじめ罰則を定めるといった内部統制への関心は、プリンシパル=エージェント問題や汚職防止の制度設計をめぐる現代の議論を先取りしている。福祉に関する規定からは、古代の国家統治論が救援や公共事業を単なる慈善行為ではなく、安定した統治の条件として捉えていたことが分かる。
マックス・ウェーバーは「職業としての政治」(1919年)で、『アルタシャーストラ』を「まさに急進的なマキャヴェリズム」の古典的表現と呼び、それと比べればマキャヴェッリの『君主論』は「無害」だとした。このマキャヴェッリとの比較は、本書の受容に影響を与えてきた。インドでは、戦略文化や外交政策をめぐる議論で本書が引き合いに出され、カウティリヤはしばしば政治的リアリズムの創始者として紹介される。歴史家は、こうした用法には時代錯誤がありうると注意を促している。本書が前提とするのは、君主制、ヴァルナに基づく階層的な社会秩序、そして競合する小王国からなる世界である。
批判
- 道具主義的な倫理。 本書は、王の利益にかなう場合には、スパイ活動、欺瞞、暗殺、宗教的信仰の操作を推奨しており、そのため多くの読者は本書を非道徳的なものとみなしてきた。一方、こうした手法はダルマと臣民の福利を重視する枠組みに組み込まれていると指摘する者もいる。
- 監視国家。 本書に描かれる秩序は、広範な情報提供者と秘密の適性試験に依存しており、プライバシー、適正手続、結社の自由とは相容れないモデルである。
- 階層制。 本書が擁護する社会秩序は、世襲のヴァルナ身分と不平等な法的処遇に基づいている。
- テキストの不確実性。 本書は複数の層から成り、成立年代にも論争があるため、「カウティリヤの思想」やマウリヤ朝時代の実践についての主張は不確かな根拠に立っている。本書は実際の行政ではなく、理想を描写している可能性がある。
主要著作
- Arthashastra — Patrick Olivelle (trans.), King, Governance, and Law in Ancient India: Kauṭilya's Arthaśāstra (Oxford University Press, 2013); R. Shamasastryによる先行訳 (1915)
- 概要:'アルタシャーストラ'、Wikipedia
- 受容:Max Weber, 'Politics as a Vocation' (1919), in H. H. Gerth and C. Wright Mills (eds), From Max Weber (1946), pp. 123–124
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